東京高等裁判所 平成元年(行ケ)257号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで取消事由1について検討する。
1 成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例には、引用発明の目的、構成及び効果について次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 引用発明は、親水性ゲル材料、すなわち吸水して膨張した状態で使用される高分子材料に関する。更に詳しくは水溶性ポリマーであるプルランを種々の架橋剤を用いて架橋せしめてなる親水性ゲル材料に関し、その目的とするところはすぐれた膨潤性と力学的性質を有する新規な親水性ゲル材料を提供することにある。
近年、高分子材料の医療産業、食品工業あるいは農芸分野への利用が進むにつれて、親水性高分子への関心が高まり、特に水不溶性で、かつ吸水性を有する高分子材料の機能的な用途として、例えば各種のメンブランや液体クロマト担体などの分離精製材料 微生物、植物などの合成培地、コンタクトレンズ、縫合部被覆などの医療用材料あるいは吸水性を利用した各種衛生材料などが注目され、すでに実用化されているものもある。
しかしながら、一般に従来の親水性ゲル材料は吸水率を高めようとすると力学的性質が急激に低下したり、毒性あるいは生体への適合性に問題があるなど親水性ゲルの性能として実用上充分満足し得るものは極めて少ないと言える。さらに、ゲルの調整方法が複雑であつたり、非常に高価であるために、その用途に著しい制限をうけるなど、現実には多くの問題を含んでいる。
引用発明の発明者らは、これらの問題を顧みて、鋭意検討を重ねた結果、種々の優れた特徴を有するプルランを出発材料として、これを架橋剤を用いて架橋することにより親水ゲルとして好ましい性質を保持し、特にすぐれた力学的性質を有する親水性ゲル材料が極めて容易に、しかも比較的安価に得られることを見出し引用発明をなすに至つた。
(甲第四号証第一頁左下欄八行ないし第二頁左上欄二行)
(二) プルランを架橋せしめてなる不水溶性で、かつ水に膨潤性の親水性ゲル材料。(特許請求の範囲)
プルランは冷水及び熱水にも極めて溶解し易く、その水溶液の粘度が著しく低いこと、しかも水溶液はゲル化、老化などの現象もなく長期間安定であることなどの水溶液としての性質、卓越した膜形成能を有すると共に、特に膜の透明性あるいは力学的性質が優れていることなどの固体としての性質、さらに毒性がなく生体への適合性も良好であることなど多くの好ましい性質を有している。(甲第四号証第二頁右上欄一三行ないし左下欄一行)
(三) 引用発明の目的とする親水性ゲル材料は平均膨潤時において、次式
吸水率={(含水ゲル重量-乾燥ゲル重量)/乾燥ゲル重量}×一〇〇(%)で求められる吸水率が一〇%以上好ましくは二〇%以上のものをいい、吸水率の大きさは引用発明に用いるプルランの分子量及び架橋剤の種類や量あるいはその他の架橋条件を適宜選択することによつて種々の用途に適合せしめることができる。(同第二頁右下欄四行ないし一二行)
引用発明の親水性ゲル材料は、プルランの架橋体からなり、該親水性ゲル材料は吸水して親水性ゲルを形成するものであつて、その用途に応じてフイルム状、シート状、管状、棒状、繊維状、粒状あるいはスポンジ状等の適宜な形状を有する事ができる。(同第四頁左上欄二行ないし八行)
2 原告は、引用例には、引用発明の材料を用いてコンタクトレンズを作ることは記載されていない旨主張する。
確かに、引用例には、引用発明の材料を用いてコンタクトレンズを作ることは、直接的には記載されていない。
しかしながら、前記1記載のとおり、引用発明は、その特許請求の範囲を「プルランを架橋せしめてなる不水溶性で、かつ水に膨潤性の親水性ゲル材料」とするものであつて、プルランは水溶液としての性質、卓越した膜形成能を有すると共に、特に膜の透明性あるいは力学的性質が優れていることなどの固体としての性質、さらに毒性がなく生体への適合性も良好であることなど多くの好ましい性質を有していること、引用発明の従来技術として、水不溶性で、かつ吸水性を有する高分子材料によるコンタクトレンズが既に実用化されているが、現実には多くの問題を含んでいること、これに対し、引用発明は、右の如き種々の優れた特徴を有するプルランを出発材料として、これを架橋剤を用いて架橋することにより親水ゲルとして好ましい性質を保持し、特にすぐれた力学的性質を有する親水性ゲル材料が得られたものであるから、すでに実用化されている「コンタクトレンズ」は引用発明の親水性ゲル材料の用途としても意図されているというべきである。
3 また、原告は、「コンタクトレンズ材料はコンタクトレンズの機能上から光学的透明性を有することが大事な要件であり、そして引用例にはプルランが透明であることは記載されているが、この引用例の材料「プルランを架橋せしめてなる不水溶性で、かつ水に膨潤性の親水性ゲル材料」が透明である旨の記載はない。」と主張する。
確かに、引用例には、引用例の材料である「プルランを架橋せしめてなる不水溶性で、かつ水に膨潤性の親水性ゲル材料」が透明である旨の直接の記載はなく、しかも、前掲甲第四号証によれば、引用例の実施例3、4によつて得られた粉末状のゲルは淡黄褐色であることが認められる。
しかしながら、前記1記載のとおり、引用発明は、種々の優れた特徴を有するプルランを出発材料として、これを架橋剤を用いて架橋することにより親水ゲルとして好ましい性質を保持し、特にすぐれた力学的性質を有する親水性ゲル材料が得られたものであるから、引用発明の親水性ゲル材料は、プルランの好ましい性質のひとつである膜の透明性を保持しているものと解される。
そうすると、引用例の実施例1、2及び5において、得られたフイルム状ゲルは、特に記載はないが、透明であると解するのが自然である。
4 さらに、原告は、「引用例のものは、……「その用途に応じてフイルム状、シート状、管状、棒状、繊維状、粒状あるいはスポンジ状等の適宜な形状を有することができる。」と記載されているにすぎず、コンタクトレンズを示唆する形状の記載もない。」旨主張する。
なるほど、引用例には、コンタクトレンズの形状について記載されるところはないが、引用例における形状についての右記載は、適宜な形状として代表的なものを単に例示しただけのものであると解され、引用発明の親水性ゲル材料の形状を、これらの例示に限定して解する理由は見当たらない。
よつて、引用例にコンタクトレンズの形状にすることが記載されていないからといつて、そのことから直ちに、引用発明が用途としてコンタクトレンズを意図していないものであるということはできない。
5 したがつて、本件審決が、「当審の拒絶理由に引用した引用例には、プルランをカルボキシル基のような水酸基を有する架橋剤により処理して得られる、水に膨潤性の材料を用いてコンタクトレンズをつくることを内容とする発明が記載されている。」と認定したことに原告主張の誤りはない。
三 次に取消事由2について検討する。
1 成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 技術的課題
(1) 本発明は、非膨潤性のコンタクトレンズ、いわゆるハードコンタクトレンズに関するものである。(甲第二号証第一頁八行ないし一八行、甲第三号証の二)
(2) 本発明者は、コンタクトレンズの使用に際しての取り扱いの簡単さからいわゆるハードタイプのコンタクトレンズ材料に注目し、かつコンタクトレンズの装用性の面から角膜上皮細胞表面を覆つているムコイド層等との親和性に優れた素材は何であるかを研究した結果、糖類の単独重合体、中でもセルロース系の多糖類ではなく、デンプンのようなD―グルコースの単独重合体が角膜との親和性に特に優れたものであることを究明したのである。しかし、デンプンのようなD―グルコースの単独重合体を用いてコンタクトレンズを作つても、D―グルコ―スの単独重合体が涙液に対して可溶性のものであるので、単にD―グルコースの単独重合体をコンタクトレンズ素材とすることはできない。又、デンプンのようなD―グルコースの単独重合体とMMA(メチルメタクリレート)との共重合体では、涙液に対して不溶性になるものの、角膜との親和性が低下し、かつ吸水によるベースカーブの変形が大きくなることを見出したので、さらに研究を進めた結果、D―グルコースの単独重合体、例えばデキストラン、プルラン又はマルトース等で代表されるD―グルコースの単独重合体を部分的にエステル化又はエーテル化し、涙液に対して不溶化変性処理した非膨潤性で透明なD―グルコースの単独重合体をコンタクトレンズ素材として用いること、これらの素材は涙液に不溶性となるのみでなく、その酸素透過性も高くなり、しかも角膜との親和性にも優れており、その装用感は著しく向上したものとなることを見い出したのである。又、これらの素材は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)に比べて吸水率は大きいものの、吸水によるベースカーブの変形はPMMAと同様に小さく、視力矯正にも優れたものであることを見い出した。(甲第二号証第二頁右下欄三行ないし第三頁左上欄一一行、甲第三号証の二)
(二) 構成
(1) 涙液に対して不溶化変性処理した非膨潤性で透明なD―グルコースの単独重合体を用いて構成したことを特徴とするコンタクトレンズ。(特許請求の範囲)
(2) D―グルコースの単独重合体、例えばプルラン……を、例えばビリジン触媒中で無水酢酸によつてエステル化を行なう。このエステル化は、プルランの水酸基をアセチル基に置換し、その置換度を一・五以上、望ましくは二以上三未満にして、水に不溶性の材料にする。この部分エステル化プルランを、例えばコンタクトレンズの成型容器に注入し、加熱処理した後、室温において放置し、その後成型容器より取り出し、仕上げ加工を施すと、直ちに装用可能なコンタクトレンズが出来る。(甲第二号証第三頁左上欄一四行ないし右上欄五行、甲第三号証の二)
(三) 効果
本発明に係るコンタクトレンズは、涙液に対して不溶化変性処理した非膨潤性で透明なD―グルコ―スの単独重合体を用いて構成してなるので、親水性及び酸素透過性に優れ、その装用感は一段と向上したものとなり、さらには角膜上皮細胞表面との親和性に優れ、又放熱効果にも優れたものであるので角膜がむれるようなことがなく、その装用感はCAB(セルロースアセテートブチレート)やデキストランとMMAとの共重合体等を素材とするコンタクトレンズより一段と優れており、又吸水率がデキストランとMMAの共重合体あるいはCAB製のコンタクトレンズと同程度なるも、吸水率がはるかに小さなPMMA製のコンタクトレンズの場合を同様に吸水によるベースカーブの変形は小さく、従つてコンタクトレンズ本来の目的である視力矯正にも優れたものであり、かつ本発明になるコンタクトレンズの素材はいわゆるハードタイプのものであるので、例えば特開昭五一―一四九八八三号公報で提案されているような素材を用いて構成したソフトタイプのコンタクトレンズよりもコンタクトレンズの取り扱いは極めて簡単なものとなる等の特徴を有する。(甲第二号証第四頁左上欄一七行ないし右上欄一二行、甲第三号証の一、二)
2 原告は「引用例のものでは、アルデヒド化合物、イソシアナート化合物、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン等が用いられようとも、吸水率が二〇%以上、どんなに少なくとも一〇%以上のものであり、膨潤するものしか提供できず、このことを、仮にコンタクトレンズに用いたとしても、膨潤性のコンタクトレンズにしかなり得ず、これより非膨潤性のコンタクトレンズを提供できるものではない」と主張する。
前記二1記載のとおり、引用発明は、すぐれた膨潤性と力学的性質とを有する新規な親水性ゲル材料を提供することを目的とするものであつて、引用発明の目的とする親水性ゲル材料は平均膨潤時において、吸水率が一〇%以上好ましくは二〇%以上のものをいい、吸水率の大きさは引用発明に用いるプルランの分子量及び架橋剤の種類や量あるいはその他の架橋条件を適宜選択することによつて種々の用途に適合せしめることができるものであるが、前掲甲第四号証によれば、実施例1ないし7には、吸水率がそれぞれ三〇〇%、一五〇%、二五〇〇%、五〇%、一六五%、五二〇%、二三〇%のものが示されていることが認められる。
右事実によれば、引用発明は、吸水率が一〇%以上、好ましくは二〇%以上の膨潤性のゲル材料を意図するものであつて、膨潤性の少ない、または非膨潤性の材料を意図するものではないと解される。
3 また、原告は、「本件審決は、……「親水性材料を用いた場合に“Variable Vision”と呼ばれる、含水率変化によるコンタクトレンズの屈折率、サイズ、透明度などの望ましくない変化があることは従来周知である……」と認定しているが、Variable Visionの問題を解決するために、本願発明のようにすればよいとの技術思想がこれまで提案されていたことはない。」と主張する。
(一) 成立に争いのない乙第二号証によれば、本件審決において、周知例として引用されている特開昭五〇―三九五六六号公報(以下「周知例」という。)の発明は、特許請求の範囲を「N―ビニルビロリドンを主要成分として含有する架橋重合性液状組成物に、該液状組成物に可溶でかつ非水溶性の高分子物質を溶解させて後、該液状組成物中の重合成分を架橋重合させて得られる透明な高分子組成物を必須構成成分とし、かつ六〇%以上の含水率を有することを特徴とする長期連続装用可能なコンタクト・レンズ。」とするものであり、発明の詳細な説明の欄には、次のとおり記載されていることが認められる。
(1) 周知例の発明は、長期連続装用できる高含水性の新規コンタクト・レンズに関するものであり、特に従来の親水性ソフト・コンタクト・レンズの問題点とされてきた機械的強度、水および酸素の透過性、光学的性質、および毒性の問題を著しく改善した全く新規なコンタクト・レンズに関するものである。(乙第二号証第一頁左下欄一四行ないし末行)
(2) 理想的なコンタクト・レンズを与える素材と考えられたHEMA(2―ヒドロキシエチルメタクリレート)系含水ゲルにも、いくつかの問題があることが臨床テストや実用化が進むにつれてわかつてきた。その代表的なものは、機械的強度、毒性、光学的性質、物質透過性に関するものである。(同第二頁右上欄三行ないし九行)
(3) 光学的性質については、とくにその性能の変動が問題になる。すなわち、装用時の外的環境によつてコンタクト・レンズの含水率が変動しそのためにコンタクト・レンズの屈折率、サイズ、透明性などが変化して“Variable Vision”と呼ばれる現象を起こすことである。レンズ表面からの水の蒸発がさらに多くなり、涙液によるレンズへの水分補給が遅れるとレンズのエツジがまくれあがることもある。(同第二頁左下欄末行ないし右下欄八行)
(4) そこで光学的性能の改善もあわせて達成すべく、これまでの含水ゲル製コンタクト・レンズには全く例をみないようなリジツドな骨格を有する化学成分の導入を試み、それによつて目標とする全く新規なコンタクト・レンズを得ることができた。(同第三頁右上欄一行ないし六行)
(5) 特許請求の範囲記載の構成の採用
(6) こうして得られた新しい高含水性のコンタクト・レンズの詳細は以下の実施例でも説明するが、次のような特徴を有している。(同第四頁右下欄末行ないし第五頁二行)
次に光学的性質であるが、周知例の発明のレンズは分解能が高いことが特徴である。すなわち周知例の発明のレンズ表面の水分保持性がよく、外的環境の変化によつてレンズの光学的性能が変動することがないだけでなく、非水溶性高分子物質の存在によつて像のシヤープさが発現されるわけである。(同第五頁右上欄二行ないし八行)
周知例の発明のコンタクト・レンズは含水率六〇%以上、好ましくは六五%ないし九〇%と高いため、装用時間が長くなるとしばしば観察されるタンパクなどの付着がきわめて少ないことが特徴である。(同第五頁右上欄一五行ないし一九行)
(二) 右事実によれば、周知例の発明は、長期連続装用できる高含水性のコンタクトレンズに関するものであり、その光学的性質に関しては、「装用時の外的環境によつてコンタクト・レンズの含水率が変動しそのためにコンタクト・レンズの屈折率、サイズ、透明性などが変化して“Variable Vision”と呼ばれる現象を起こす」という従来の問題点を、「レンズ表面の水分保持性がよく、外的環境の変化によつてレンズの光学的性能が変動することがない」ようにしたのであるから、周知例において、“Variable Vision”の原因として捉えているのは、レンズ表面の水分保持性の悪化、すなわち含水率の低下であり、しかも、周知例の発明は、「六〇%以上の含水率を有する」のであつてVariable Visionの問題を解決したものではあるが、含水率が何%以上であればVariable Visionの問題を生じさせるかについての知見は周知例からは認められない。
(三) 右事実並びに前記1認定の事実を勘案すると、引用発明の親水性ゲル材料は、吸水率一〇%以上のものを対象とするものであつて、膨潤性の少ない、または非膨潤性のものを意図するものではなく、また、周知例によれば、親水性ゲル材料からなるコンタクトレンズにおいては、確かに、Variable Visionと呼ばれる現象が起こることは周知ということはできるが、右Variable Visionの原因が含水率の低下にあると考えられていたのであるから、引用発明と周知例による周知事項とを組み合わせても、引用発明の親水性ゲル材料の含水率を小さくすることを想起させるものは、何も見いだせず、引用発明におけるプルランを、膨潤性の少ない、または非膨潤性の不溶化処理したものとすることが容易になし得るということはできない。
4 被告は、「周知例の発明において、含水率を六〇%以上としているのは、物質透過性を良くするためであつて、Variable Visionの問題を解決するためではない。コンタクトレンズの分野においては、物質透過性と機械的強度(光学的性質、即ち、Variable Visionの問題と関係する。)とは、従来相容れないと考えられてきたものであるが、そのどちらの特性の改善により重きを置くかは、各発明における選択の問題であり、周知例の発明においては、物質透過性の改善に重きが置かれている発明であり、もし、光学的性質の改善に関係する機械的強度の改善により重きを置くならば、できるだけ膨潤性を小さくすることにより重きを置くべきものであることは明らかである。」と主張する。
しかしながら、周知例の発明が、機械的強度、毒性及び物質透過性とともに、光学的性質の改善を図つたものであること並びに周知例の発明が、レンズ表面の水分保持性をよくすることによつてVariable Visionの問題を解決したものであることは、前記3で述べたとおりであつて、周知例の発明が、物質透過性の改善に重きを置いたものであるということはできない。また、仮に、光学的改善に重きを置くことが各発明における選択の問題であるとしても、引用例には物質透過性の改善を無視してまでも光学的改善に重きを置くことを示唆する記載はない。
5 被告は、「水に膨潤性のものをコンタクトレンズの素材として使用する場合には、コンタクトレンズのまわりの環境が変わるとその変化に応じて含水率が変化するので、屈折率、サイズ、透明度等の望ましくない変化があることは明らかなことである。」と主張するが、前記のとおり、このことから直ちに、親水性ゲル材料を膨潤性の少ない、または非膨潤性の不溶化処理したものとすることが容易であるとはいえない。
6 したがつて、本件審決における「当業者ならば、前記プルランを膨潤性の少ない、または非膨潤性の不溶化処理したものとする程度のことは容易になし得ることというべきである。」との判断は、誤りである。
四 よつて、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
涙液に対して不溶化変性処理した非膨潤性で透明なD―グルコースの単独重合体を用いて構成したことを特徴とするコンタクト・レンズ。